r*****さんのレビュー一覧

女子攻兵
女性たちのあられもない場面はグロテスクに描かれ、それが実際には女性ではない事実がわざわざ蒸し返して示される。変態性をさらし極めた人物は自らその場を去り、届くはずのないメールを誰もが四六時中やりとりしている。この一見して狂気溢れる作品世界が、実は全て当たり前の感覚によってあぶり出された現実のメタファーだとしたら、この作品はまるで"曇りのない鏡"のようであると言えるだろう。だからこそ、分裂的なイヤな緊張感が、作品全体へずっと澱んでいるのかもしれない。見詰める覚悟と、誤らないためのリテラシーが多量に必要とされるのかもしれない。いずれにせよ、分かっているつもりで読み終えてもそののち寒気を止められない、真に凄みある作品との印象だった。
月の恋人
分かったような、分からないような物語を紡ぐ、そんな感覚系の作品集。ある程度の質が担保されていることは、その独特の透明感ある画面を見ているだけで分かる。そこで描かれる人々の言動も分かる。分からないのは、ほんの些細な部分。でも…人の気持ちにはたいてい謎が含まれているのだから、他人は無理に分かろうとせず黙視するのが良いのかもしれない。下手な解釈をせず受け入れることが、本当に分かるということかもしれない。
好感度と共に○○が成長していく幼馴染ちゃん。
タイトル通りの一発ネタ。後半は育ち過ぎて奇〇気味なのが残念だったけど、その辺の評価は人それぞれだろうか。でもこの娘なら性格も良さそうだし、大きかろうが小さかろうが一緒にいて幸せになれそうかな。
夢見が原
曽祢まさこ先生の短編を3作。短編とは言えやや長めな分だけ話は描きこまれ、どれも一気に読まされるほど密度が高かった。♯1:[怪談 すすきが原]学校もの。ひどいイジメ、理解の無い親。それでも他人の不幸を望まない気持ちで在り続けたから、主人公は護られたのかもしれない。♯2:[影踏み鬼]学校もの。ラストは主人公の悔恨の印だろうか、それとも…? ♯3:[夢見が原]伝奇もの。何という結果なのか。ありがちと言われればそうかもしれないが、それにしても、それにしても…。
三山のぼる短編集(1)オームの法則
昭和の風景を描いた、極めて良くできた短編集。物語としてはバラエティに富むが、その何れもが名も無い青年の、前へ進もうとする努力を描いて小気味良い。ただし当世風の甘々しいハートウォーミングとは無縁。それでこそ主人公たちの前に立ちはだかる"現実"が、読み手へ肌感覚で伝わると作者さんが知っているからなのだろう。
めちゃめちゃ気になってるギャルがなんかやべー感じになってくやつ。
ええいリア充爆発しろ! …ったく、一体なにを見せられたんだよコレ(苦笑)。けど自分の本音を晒すのが怖いのに、相手の本音が聞けないことを不安と思う気持ちは分かるから、状況を乗り切れて良かったと心底思う。友達もいい奴だし、本当の気持ちも話せたし、これからもどうかお幸せに。(未来を応援したくなったので★1つ追加)

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餅を斬れ!
『20××年、餅に突如 自我が芽生えた!』…。この入りの、壮大さとバカバカしさの兼ね備えはやっぱり良いなと。しかも始まるのは人類と餅のバトルロイヤルと思いきや、物語は意外(?)な方向へ…。もうね、こういう余裕でページ数に合わせて来ながらストレートに読者を置き去りにしてくれる漫画、大好きです。
息をつめて走りぬけよう
人間て、どうしてこれほど上下関係に拘るのだろう。或いは、生きて行く条件に生まれ付きこれほど差が有るのは何故だろう。たぶんほとんどの人は、一度はそんな悩みを感じたことがあるのではないか…。生き方に悩み、進むべき方向の分からなくなった少年たち。彼らの物語からは年齢、性別を越えた、人の世の哀しみが感じられる。
蛍のあかり
前半は学校を舞台とした伝奇もの。しかし物語はすぐに広がりを見せはじめ、終盤は千霧と蛍、2人の一族につらなった宿命じみた話になる。絵柄が独特なうえ荒々しく決して読み易い作品とは言えない。それでも前半も、後半も、画面の隅々までレトロで物悲しい風情の漂っていること変わりなかった。
よろしくモナミ
普通の作品。ただし良い意味で。どんな創作作品であれ、作られた時代の空気は必ずどこかに滲んでいるもの。しかしそれを作品全体に漂う空気感まで昇華させ、舞台となったその日、その時へ読み手を誘うまでに至った例は多くない。この作品は、その希少な成功作の一つ。もはやリアリティそのものと化した時代の雰囲気に、作者の個性、当時の作劇術が交じり合い、平凡だが良質な一個の作品を紡ぎだしている。話はドラマチックでも、過剰な表現とは無縁。そんな昭和の、当たり前の学園漫画が読みたい人には、将にしみじみ来る良作としてお勧めしたい。
1勝22敗1分け
たまに見かける、ワザと"盛大に間違ってる"スポーツ漫画の一作。弱小野球部員たちが、あり得ない相手と、ツッコミどころだらけの試合を繰り返す。呆れはするけどスベリ芸みたいに笑える気もするし、意外に捨てたもんじゃない…かも。[マンガonウェブ]♯425に15話、その後も21話まで続きあり。
臀撃おしおき娘 ゴータマン
とりあえず無料の3巻まで読了。ちゃんとスケベ、ちゃんとお笑い、ちゃんとヒーローものしている作品。なのに読んでて、全然ちゃんとしている気のしないのは何でだろ~。主人公が途中で交代するからか、それとも物語のカギが「ふんどし」だからなのか…。でも、下らなさがそのまま魅力として光る作品ってやっぱり良いんだよね。
THE 3名様 ~壊れかけのド深夜編~ 分冊版
めっっっっっちゃダラダラしてるだけの漫画。どれぐらいダラダラしてるかって言うと、昔のサタデーホットリクエスト第二部の太川陽介ぐらい。え、知らない? 知らないってばさぁ「岩手THE3名様」ってのもあったんだけど、適当な仲間とどこでもダラダラできるって良いよね。あとそこのサイトで作者の描いてたメーテル酷すぎでさすがに笑った。でもファミレスで長居するって意外に勇気いるかもなぁ…みたいな雑談系マンガだから、合う人には絶対合うはずなワケよ。
ハントムX&スキップレッド
絵柄や物語などは古びているため、一瞥だけではどうしても大昔の作品としか見ることができない。でも演出が凄い。コマそのものは普通の四角形を並べているだけ、なのにその1コマごとに構図や陰影のつけ方その他、多彩な工夫が加味されスピード感や緊張感を自在に引き出している。さすが、これでこそ小澤先生。もちろん内容的には子供向け、しかもラストはどう見ても打ち切りなのだけど、それでも漫画演出の"上手さ"に興味ある人であれば一度は目を通すべき作品と思わされた。
熱帯のシトロン
分かりにくいよ、コレ。でも実にいい漫画。見た目は昭和風味、B級風味をトリップ感で包み込んだような世界だけれど、それが主人公にとっての"今"だった事に舌を巻いた。ラスト、それぞれの人物がちゃんと生きて行く…バラバラな方向へ向かって"時代"の中を流れて行く描写に説得力が有るけれど、それは作中、踏むべき手順を踏まえて人物たちが活躍していたからこそできる技だった。流れて行く先が、客観的にみれば馬鹿々々しくて不幸せだったとしても、本人の主観でサイコー!だったら、それは棺が閉じたときに本当に最高な人生なんじゃないだろか。そう思えてくるところが感慨深い。
パンドラクライシス
学園ものを中心にその他ジャンルへも枠を広げた短編集。いずれもギリシャ神話のモチーフが入っているためか、何となく端正な雰囲気を感じさせる。少し地味で迫力にも欠けがちではあったけど、全体的には読み応え十分で思った以上に楽しめた。♯1:1作目[オルフェよ竪琴を弾け]SF、物語上のちょっとした仕掛けがよく効いて面白い。♯3:2作目[ナルシスの臨終]伝奇もの。悲劇なだけのラストに終わらなくて良かった。♯5:3作目[この胸に、アルテミスの矢]学園もの、自然な緊迫感とラスト…地味だけど良い話だ。♯7:4作目[真っ赤なミック]学園もの、なにこの爽やかさ…「いいもの読んだ」って感じが凄いんだけど。♯9:5作目[パンドラクライシス]学園もの、思わぬ形で引きずり出された醜い自分。けれど心に"傷"を抱えながら生きていたのは、自分一人ではなかった…。
エルソナシンドローム
それが計算なのかは分からないが、作品構成が凄い。電子技術の発達によってコンピューターへの人格移植が可能になった時代。"人間"と"モノ"の境界が一層あいまいとなった状況を背景に、「復讐」へ固執する主人公の姿を描いている。そのため作品テーマとはまったく別に、"人間(らしさ)"とは何か? "モノ(情報)"とは何が違うのか?を問いかけるかのような緊迫感が常に漂っている。そして作品構造からくる緊迫感を、物語や表現が全く壊していない。むしろ絶妙なバランスで支えているかのように感じる…。正直[マンガonウェブ]で読んだ時はここまで面白いと思わなかった。あの雑誌は単行本で化ける系の作品がやたら多いな、と今回は痛感。雑誌の廃刊や、そのせいでこの作品が実質打ち切りで終わっていることがとても残念に思う。
ロボ転っ!
脱!お一人様…を目指す女の子と、転校して来た男子ロボット。そんな二人のまさかな物語。人間的になろうと努力するロボット君と、つい意地を張ってしまう女の子だからこその「お友達から…」感が何ともさわやか。途中から新キャラも加入するなど、全体に暖かくて賑やかなところも良いなと思う。
女子高生と2億円
まるで予想もしてなかった良作ぶりに驚く。もちろん題材はヤクザ社会。ガラは悪いし、R18場面も多い。それでも読み終えてみれば、身体も経歴も汚れたはずの人々が、自分なりの"真っ当に汚れ方"を探す姿が印象に残る。様々な理由で社会の"多数派"から弾かれた人々には、"多数派"的ではない真摯さがある、それが本当によく描かれている。
Lady Love
世界的プリマを目指しバレエに励む少女、レディの物語。話はまだレディに幼さが残る頃から始まり、序盤を中心に未熟な面も描かれる。その後も人間としての成長よりバレリーナとしてのキャリアの方へ話が行きがちなため、読み手ごとに「主人公の印象」が大きく分かれてしまうきらいがある。けれどその一点さえ除けば、漫画としてかなり読み応えが感じられることも確か。特にバレエについてこれだけ力を入れて描いた作品は珍しく、クラシック系とモダン系との関係、興行形態についてのエピソードなど、リアリティの自然な浮かび上がらせ方には何度となく唸らされた。
イーグルアイ
若き神と、人間の巫女との恋愛譚が中心の神話のような物語。どうも作者さん初期の作品らしく、ネームが手慣れておらず読み難い。だから★はどうしても低くせざるを得ないけれど、つけた本人が勿体ないと思うほど良かった点もあちこち見られた。キャラ、キャラデザ、雰囲気作り、なによりラストは地味に感動…。だから漫画は最後まで読まないと分からない。
最終機攻兵メタルスレイダーグローリー―エイミアの面影
説明書きにある通り、ゲーム[メタルスレイダーグローリー]の後日談。多様な設定、あちこちへ飛ぶエピソードに満ち、なのでゲームを知っていれば面白いのだろうけど、知らない場合は読んでも何だか分からない。もしタイトルは知らないけど楽しんでみたいなら、無理せず最初からWikipediaなど頼りにするのがコツだと思う。
鉄のほそ道
企画でローカル線を巡ることになったライターと編集者。この作品は、そんな2人の珍道中と、旅先で出会う人々が描かれている。鉄道の描かれ方は舞台や背景に近いものの、その一歩引いた佇まいに、むしろ人々の日常に"鉄道"がいかに深く根付いているかが表現され、とても心地よい。基本的に乗り鉄向けっぽい描き方がされてるものの、そうじゃない人もノンビリした旅のように楽しめると思う。
シリーズ“皇牙&竜牙”2 妖の刻
桐子『ほら私って心やさしくて弟思いだから』 皇牙&竜牙『(ウソつけ)』…。"歩く傍若無人"こと、皇牙の姉さんも登場し、ますます盛り上がる(?)第二弾。漫画だとこういう人は話をひっかきまわしてくれるからホント面白い。それに魔物退治より、それにまつわる人々の気持ちのほうを丁寧に描いているし、人間社会の日常と、魔界という非日常をうまく繋いでくれている。それほど刺激的な話ではないけれど、その分むしろリラックスして楽しめた印象だった。
快速!潮風本線
未来の鉄道と、そこで活躍する人たちを描いたSF作品。かなり先の未来だけあって現代ではありえない設定も多いが、特に不思議な規格の車両や、「走り屋」にはかなり心惹かれた。あくまで鉄道員が主役なので鉄道ガチファンには物足りないだろうし、全体に画力もご愛敬だけど、それでも多くの人を楽しませる力を持った内容と思う。
シリーズ“皇牙&竜牙”1 奴ら!
いとこ二人がタッグを組み、妖魔を退治するバディもの。妖魔と言ってもただただ人を襲う凶悪なものから、人間よりよほど純真なものまで様々。しかも一族のしがらみや、二人の間に走る別な感情(ラーメン屋のルミちゃんGJ)などもあって内容的にも千変万化。正直ただバトルするより、こんな風にキャラや物語にも重点を置いてくれた方が個人的には読んで楽しい。
左右線
冬の怖い話シリーズ第5話。自分で運転できる(かもしれない)自動車と違い、列車に乗ってるとき、その走り方は自分の意思で決められない。だからこそ時おり湧きあがる一瞬の不安を上手く吸い上げ、見事にホラーへ仕立てた印象。ラストこそ分かりにくいものの、他の方のレビューも参考にすれば突然の"出来事"を楽しめると思う。
ノラ・ソラ
加治佐修先生の初期短編を4作続けて読んでみた。そしてまだ何処となく初期らしい一作目から、表現力が上がり続け完全に第一線レベルに至ったこの四作目までを見て、いろいろ思わせられるものが有った。特に…負けん気の強い元気な少年、次〇にも似たニヒルな達人、見守る少女も、悪役も、よく考えられて存在している。迫力あるアクションの、技術的には申し分ない"この作品"が短編に終わった理由はいったい何だったのだろう? その事を考えた時に得られた"何か"は、これから他の作品を読む時にも、読み解きの手助けとなってくれそうな気がしている。(★については、個人的に足裏がグロ並みに苦手なのでマイナス1。でも内容的には本当に地味に良作だと思っています。)
25日の訪問者
冬の怖い話シリーズ第3話。クリスマス・イブにおきた奇妙な出来事を描いたホラー。ページ数は少なく、物語に新味は無いけれど、その分ほかはお釣りが来るぐらい本気で上手い。例えば主人公の一人暮らしの"リアリティ"が丁寧に描かれるからこそ、"怪異"との対比が強烈な印象となって読者へ残る。短編好きの方には特にお勧め。
NOW AND ZEN!
短編ながら見事なSFアクション漫画。SFと言ってもそれほど大げさではなく、しかも表現が上手いため入り組んだ設定もサクサク入る。人物やその関係性、アクションなどの見せ方も小気味よく、むしろまとまり過ぎとさえ思うほど。物語そのものはオーソドックスだったが、完成度の高さに見合う楽しい作品だったと思う。
僕には見える
冬の怖い話シリーズ第2話。やはりこのページ数ではまとめ難かったのか。何度読み返しても誤読させられ、その都度クビを傾げざるを得なかった。別な言い方をするなら、読者を物語へ誘導する役割をネームが果たせていないとしか…。ラストを盛り上げるため工夫しているとは分かるものの、そのしわ寄せで読み難くなっては評価も厳しくせざるを得ない。
ナグモ
作者さんが変な色気を出したりせず、目の前の原稿に集中したことが伝わってくる一作。登場人物の人間性や立ち位置、アクション、変化する状況描写など全てがうまく仕上がり、読み切り短編であることが勿体なく思えてくるのだから。もう少し独自性やインパクトが有ったら「有望新人の新連載」となって続きも読めたのだろうなぁ…。
逃げられないこたつ飲み
冬の怖い話シリーズ第1話。良く出来たライトホラー。どこにでもある実話系のような雰囲気で始まり、このまま淡々と進むと思わせといて一気にギアが入る。おまけに、地味に上手い人物描写やさりげない伏線にも支えられ、気付くと夢中で読んでしまう。一部の人間関係に疑問も残るけど、それでも良い感じのラストに「雨降って地固まる」と思えた事も嬉しかった。
ハプニングゴーゴー!!
作者さん初期の短編。なので絵柄、表現などは"言われれば"それっぽい箇所も有るものの、全体では一般誌に載って違和感ないのはもちろん、手堅いプロットの存在までも感じられる出来になっている。実際ファンタジック(SFとまでは呼べない)な事件に巻き込まれた少年たちの「こうでなくちゃ」な活躍はとても楽しかった。
明朝幻想夜話~『聊斎志異』選集~
中国文学の中でもよく知られた作品の一つ[聊斎志異]。怪奇と幻想に彩られたその作中から、特に「男女の情」に通じたエピソードを選んで漫画化したのがこの作品。なので当たり前ではない、世にも不思議な「縁」を意識させられる物語が多い。結ばれることを願う心と心が起こした、ありえないはずの話。それが綺麗に浮かび上がるように描かれていて、とても印象に残る。
悪がよぶ!
敵も味方も熱い気持ちで活躍する作品。意外なほど緊迫したバトル、どこまでもズッコケたギャグ、そして善悪が逆転した構図など、見どころも多い。全体に洗練とは遠い作風のため必要以上に古く見えるものの、劇画調の画風でさえ、内容に見合っていて悪くないと思えてくる…。そんな楽しい、漫画らしさを持った漫画だった。
恐怖クラブ
人間であれば、その気持ちは常に揺れ動く。喜怒哀楽や、妬みや、恨み。自分の気持ちを自分で自由にできないせいで、時には取り返しつかない事件も起る…。そんなエピソードを幾つか連ねた物語。若くして"事件"に関わった者が「恐怖」「秘密」のクラブへ集った時いったい何が起きるのか? その結末の物悲しさは、さすが曽祢まさこ先生と思う。
続・白銀の魔狼
[白銀の魔狼]後半から登場したエスター姫、そして護衛役の剣士ソール、魔導士テュールの物語。待ち受ける幾つもの冒険の中、思いやっているが故に一筋縄ではいかない気持ちに、お互いどう決着を付けるのか? 仄かな、けれどハッキリとした恋の気配も漂わせ、物語は暖かに続いて行く。 読後感もとても心地よかった。
UFO・デロ
押入れの奥から出てきた「UFOスペシャル!」と書かれたビデオテープ。この作品は、そんな昭和のテレビの匂いが強烈だった。あの頃、ブラウン管の向こうで次々示される"真実"にいちいち驚いていたけれど、罪のない話にあれほど夢中になれたこと。戻らないその幸福を、まるでもう一度噛み締めるように読めた気がした。
白銀の魔狼
古いと言うだけで、その作品をつまらないと言い張る人はけっこう居る。けれどこの作品を読めば、彼らの考えも少しは変わるかもしれない。政略結婚を迫られた王女の運命、そしてその後を描いた連作短編。古くて刺激にも欠けるのに、だからこそ素朴で旨い和定食でも食べたような…。そんな不思議な暖か味のある作品なのだから。
四次元ミステリ ゴゴラ・ドドラ
日野日出志先生の作品を初めて読む、という事で期待したのだけど…うーん、これは代表作じゃ無いなと初見で分かる出来。物語が勢いだけで進むため「結局なんだったんだ」以外の感想は持ちにくい印象だった。とはいえ伏線回収によって作品へ一貫性を付与するなど、先生の作家としての力量にも幾分触れられた思いもした。
獄中書評ごくどくっ!
書評を漫画でしてみた本。服役中の女性が、自身の読んだ一冊を紹介する趣向になっている。漫画としては、設定は面白いながら絵や作りはあまり上手くない。書評本としては、内容はともかく紹介冊数がとても少ない。故に、アイディアは良いのだけど成功作とは言い難く、せめてもう少し量があれば…そう思わずにいられなかった。
マグニチュード
パニック・エンタテイメントと言えば、ビル火災やタイタニック号の洋画を思い出す人は多いだろう。しかし舞台が日本ならば、やはり一番説得力が有るのは地震。今作も、日本を襲う巨大地震と、異常事態を前に己の策謀をぶつけ合う人々の姿を描いている。何事も秘密裡に運ぼうとする政府、それへ反発する主人公たち。さらには危難の日本からうま味を得ようとする海外勢も加わって、事態は予断を許さない方向へと進んで行く…。全体に話を広げ過ぎた感こそあるものの、漫画としての迫力は十分すぎるほど。災害を娯楽作品の題材とすることに疑問を感じる人もいるだろうけど、忘れてはいけない事や、忘れてはいけない人たちの姿をいつまでも憶えているために、あえてこうした作品が描かれ、読まれることも必要だろう気がしている。
プレイヤーは眠れない
「コンピュータ通信」が「インターネット」へ移行し始めた1993年。メタバースを巡る事件へ、ワケ有って首を突っ込んだ主人公の"闘い"を描いた作品。「コンピュータ・ネットワークを巡る頭脳戦」という時代の変化に晒され易い話を扱っているが、肝心の部分については技術論よりも周辺描写…例えば、ネットワーク化されたコンピュータたちが"反乱"を起こす…などによって表される。そのため小難しい技術論は省略され、IT環境が大きく変化した現代に読んでもほとんど陳腐さを感じないなど読み易く面白い。もちろん時代なりとは言え場のリアリティもしっかり保障されており、お陰で今さらドラマ化されても不思議じゃないとさえ思えるほど楽しんで読むことが出来た。
スリーピング・ドラゴン
アクション、ユーモア、奇抜さの、ほどよく望める短編集。それぞれ、1)バディの怪盗もの。2)ハロウィンの夜の怪しいパーティー。3)危険でドタバタな刑事もの(ちょっと恋愛あり)。4)ありえない発明の結末は? オマケも付いて全5作。絵柄は少し古いけど、どれも地に足の着いた楽しさに満ちていた。
武則天
中国史を眺めるならどうしても避けて通れない。武則天(則天武后)とは、そんな人物の一人である。中国史上でただ一人の女帝…と書けばそれは一言。しかし名も無い市井の暮らしから、宮廷の奥の奥、巨大国家の中枢に聳えるまでの間、いったい何が有ったのか? いったい彼女が何をしたのか? 多少の脚色もありながら、しかし怒涛の歴史に目の離せない思いがした。
卑弥呼
日本史に詳しくない人でも「卑弥呼」の名を聞いたことはあるはず。なのに卑弥呼の時代の事は、本当に簡単にしか分からない。だから"謎"の部分はエンタテイメントに当て、国盗りへ、プラトニックへ物語を存分に盛り上げる。歴史漫画としてはかなりファンタジーへ寄ってるが、作品として楽しく、やはり未完なことが惜しまれる。
カミカクシ。
恋愛、時代劇、SF。普段はバラバラなジャンルたちが絡み合って生まれた稀有な佳品。しかも美麗な表紙に目を惹かれるけれど、実は中身も良い。やや軽みが過ぎる点を別にすれば、複雑なはずの設定は整理され読み易く、テンポ良く進む話に読後感も爽やか。たぶん多くの人が楽しい気分で読める作品と思う。
クレオパトラ【ワイドビュー版】
古代エジプト最後の女王「クレオパトラ」。その名は有名にもかかわらず、少女時代のことは意外に知られていない。この作品では、早や10代半ばで権力闘争に弄ばれた、クレオパトラの数奇な半生が描かれる。史実に照らせば父親が善人すぎる気はするが、それもご愛敬。のちに国家の存亡をかけてローマと駆け引きした"女帝"の、その若き日が、映画のような美しい画面でよみがえる。(予想よりはるかに分かり易く美麗だったため★1つ追加)
BIBLIOMANIA
ラストまで読んでも、物語の詳細はよくわからない。もし言語化できるところまで理解したいなら、何回か読み込むことも必要なのかもしれない。ただ感覚的に伝わって来る物語、その壮大さについては印象へ残る。だから、まるで物質の海から生まれた人間が、情報の海へ飲み込まれ溶けてゆくかのような流れをどう見るか…。それによってアリスは主人公か? 狂言回しか? ここへ描かれているものは幸福か?、狂気か? その読後感は大きく変わってくるものと思う。
時遍路
いつか分からないほどの昔、愛しい者の跡を追い旅に出たセトナ。しかしそれは、不思議な青年ライを道標とした、未知なるモノとの戦いの旅でもあった…。絵柄、物語、ネームなど、いろいろ今一つながらどこか惹きつけられる作品。セトナとライの相棒ぶりは見ていて楽しく、過ぎゆく一期一会の出会いそれぞれに風情が感じられた。
えすえむ夫人
『堕ちてゆくのも幸せ』…と、そんな歌詞を持つ歌がむかし流行った。あるいはこの作品は、そんな時代を知っていながら上手く大志を抱けなかった人、あるいは上手く生きられなかった大人こそが読むよう、描かれたものかもしれない。喜びの内に現実が壊れる…そんな夢が見られなければ、いつの間にか定まった"墓場への道"などとても歩けるものではないからだ。
不運な彼女のペリペティア
特殊能力に"不運"を持つ冒険者 vs 人死にが出ない仕組みの冒険。同じ冒険ものでも俺TUEEEEとは全く違う、独自視点の物語には凝った面白さが感じられる。欠点としては、CRPGの様式を知ってることが前提、キャラの描き分けがアイコン頼り、ラスト未完など。そのため読み心地的にかなりクセは強かったものの、いちど馴染めば意外なほど楽しめる印象だった。
ラブZ
想いを残して死んだ主人公の公平。彼の真摯な想いを知ったヒロイン、ル子の気持ちは…。幽霊と人間の恋愛譚であるにも拘らずホラー要素はゼロ。周りの協力を得ながら、霊界の掟を破ってまで結ばれようとする二人の、必死の闘いが描かれる。話は迷走していたものの、ヒロインも友情に厚い仲間たちも、みんなが印象深かった。
悪魔の帰還―サターン・リターン
人を殺すことを、どう捉えるか? 口先だけではどうとでも言えるからこそ、それを考える事さえ忌む風潮が作り出される。しかし口先から出た"言葉"には、ロジックという名の"魔力"が宿る。一度その魔力に感染すると、人によってはもう後戻りが出来なくなる…。物語がシンプルな分だけ重厚さには欠けるものの、エロ、グロ、狂気あふれる世界を、読み易いエンタテイメントへ昇華させた佳作。(★が3なのは人を選ぶ作品であるため)
妖獣武装ブライオー
特殊な獣を鎧のようにまとい、戦う主人公のバトルもの。古い漫画ながら、前半は着眼点が良い分だけ緊迫感が感じられた。けれど打ち切りが決まったのか、後半はせっかくの伏線を畳もうとバタバタした印象に…。それでもちょっとしたギャグが入れられたのはまだ救いの内だろうか。ラストも工夫しての結果だったと思えた。
華奉公
こどもの頃からあこがれるように見てきた隣のお姉さん。彼女は月に一度だけ、とても悲しそうな顔をしていた。それがいつしか、誰かを慈しむような表情に…。悲しみの向こう側に新しい運命を見た女性と、彼女を見守ってきた男の子、そしてもう一人の物語。あくまで掌編ではあるものの、小さな世界なりの読み応えが感じられた。
刃蕾 警視庁生活環境課特別指定奇病対策係
主人公たちが犯罪者と戦うバトル作品。一智和智先生お得意のパターンをうまく応用し、警察内でもはみ出し者ばかりの、対奇病集団の活躍を描いている。ただし相手は"奇病"に罹患したあくまで一般人。なのでバトルの迫力よりも、人間として、人間らしさを失いつつある相手とどう関わるか? そこがカギとなる展開に面白さがある。…ただ、一応区切りこそついてるものの未完であることは否めず、それだけが惜しい。
鬼狩り師
伝奇バトル作品。気功術と思しき拳法を使い、"鬼"と戦う主人公。しかし鬼の暗躍は想像を超え、日本は滅亡寸前に…。敵である鬼たちの強さはかなりのもので、それと戦う側は次々戦死へ追い込まれる。物語や演出は粗いものの絵柄は良くマッチしていて、仲間を失い、傷つきながら戦う主人公の姿には迫力が感じられた。
人間工場
無料の4巻まで読了。絵やネームから人物描写に至るまで、全体にキャリアの浅い作家さん的な雰囲気が漂う。なのに物語だけはとても説得力が有り、不思議な印象を抱きながら読んでいた。しかし4巻の後書きで納得。いただいたドラマ作りのアドバイスへ正面から取り組み、今できる結果を出した。それは将しく見事なことと思う。
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