r*****さんのレビュー一覧
女子攻兵
女性たちのあられもない場面はグロテスクに描かれ、それが実際には女性ではない事実がわざわざ蒸し返して示される。変態性をさらし極めた人物は自らその場を去り、届くはずのないメールを誰もが四六時中やりとりしている。この一見して狂気溢れる作品世界が、実は全て当たり前の感覚によってあぶり出された現実のメタファーだとしたら、この作品はまるで"曇りのない鏡"のようであると言えるだろう。だからこそ、分裂的なイヤな緊張感が、作品全体へずっと澱んでいるのかもしれない。見詰める覚悟と、誤らないためのリテラシーが多量に必要とされるのかもしれない。いずれにせよ、分かっているつもりで読み終えてもそののち寒気を止められない、真に凄みある作品との印象だった。
1
パンドラクライシス
学園ものを中心にその他ジャンルへも枠を広げた短編集。いずれもギリシャ神話のモチーフが入っているためか、何となく端正な雰囲気を感じさせる。少し地味で迫力にも欠けがちではあったけど、全体的には読み応え十分で思った以上に楽しめた。♯1:1作目[オルフェよ竪琴を弾け]SF、物語上のちょっとした仕掛けがよく効いて面白い。♯3:2作目[ナルシスの臨終]伝奇もの。悲劇なだけのラストに終わらなくて良かった。♯5:3作目[この胸に、アルテミスの矢]学園もの、自然な緊迫感とラスト…地味だけど良い話だ。♯7:4作目[真っ赤なミック]学園もの、なにこの爽やかさ…「いいもの読んだ」って感じが凄いんだけど。♯9:5作目[パンドラクライシス]学園もの、思わぬ形で引きずり出された醜い自分。けれど心に"傷"を抱えながら生きていたのは、自分一人ではなかった…。
1
エルソナシンドローム
それが計算なのかは分からないが、作品構成が凄い。電子技術の発達によってコンピューターへの人格移植が可能になった時代。"人間"と"モノ"の境界が一層あいまいとなった状況を背景に、「復讐」へ固執する主人公の姿を描いている。そのため作品テーマとはまったく別に、"人間(らしさ)"とは何か? "モノ(情報)"とは何が違うのか?を問いかけるかのような緊迫感が常に漂っている。そして作品構造からくる緊迫感を、物語や表現が全く壊していない。むしろ絶妙なバランスで支えているかのように感じる…。正直[マンガonウェブ]で読んだ時はここまで面白いと思わなかった。あの雑誌は単行本で化ける系の作品がやたら多いな、と今回は痛感。雑誌の廃刊や、そのせいでこの作品が実質打ち切りで終わっていることがとても残念に思う。
2
ノラ・ソラ
加治佐修先生の初期短編を4作続けて読んでみた。そしてまだ何処となく初期らしい一作目から、表現力が上がり続け完全に第一線レベルに至ったこの四作目までを見て、いろいろ思わせられるものが有った。特に…負けん気の強い元気な少年、次〇にも似たニヒルな達人、見守る少女も、悪役も、よく考えられて存在している。迫力あるアクションの、技術的には申し分ない"この作品"が短編に終わった理由はいったい何だったのだろう? その事を考えた時に得られた"何か"は、これから他の作品を読む時にも、読み解きの手助けとなってくれそうな気がしている。(★については、個人的に足裏がグロ並みに苦手なのでマイナス1。でも内容的には本当に地味に良作だと思っています。)
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マグニチュード
パニック・エンタテイメントと言えば、ビル火災やタイタニック号の洋画を思い出す人は多いだろう。しかし舞台が日本ならば、やはり一番説得力が有るのは地震。今作も、日本を襲う巨大地震と、異常事態を前に己の策謀をぶつけ合う人々の姿を描いている。何事も秘密裡に運ぼうとする政府、それへ反発する主人公たち。さらには危難の日本からうま味を得ようとする海外勢も加わって、事態は予断を許さない方向へと進んで行く…。全体に話を広げ過ぎた感こそあるものの、漫画としての迫力は十分すぎるほど。災害を娯楽作品の題材とすることに疑問を感じる人もいるだろうけど、忘れてはいけない事や、忘れてはいけない人たちの姿をいつまでも憶えているために、あえてこうした作品が描かれ、読まれることも必要だろう気がしている。
1
プレイヤーは眠れない
「コンピュータ通信」が「インターネット」へ移行し始めた1993年。メタバースを巡る事件へ、ワケ有って首を突っ込んだ主人公の"闘い"を描いた作品。「コンピュータ・ネットワークを巡る頭脳戦」という時代の変化に晒され易い話を扱っているが、肝心の部分については技術論よりも周辺描写…例えば、ネットワーク化されたコンピュータたちが"反乱"を起こす…などによって表される。そのため小難しい技術論は省略され、IT環境が大きく変化した現代に読んでもほとんど陳腐さを感じないなど読み易く面白い。もちろん時代なりとは言え場のリアリティもしっかり保障されており、お陰で今さらドラマ化されても不思議じゃないとさえ思えるほど楽しんで読むことが出来た。
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