ヤッチャンさんのレビュー一覧
サトラレ
サトラレが生きていくことは難しいです。サトラレであることを本人が知ってしまえば思考を周囲に知られる苦痛から精神が崩壊します。そのため日本ではサトラレ対策委員会が彼らを24時間監視しています。(もちろん彼らに気づかれないように)。
サトラレの家族にも試練が待ち受けています。例えばサトラレと性行為を行えばサトラレの心の中の言葉が周囲数十メートルまたは数キロメートル四方の人たちに聞こえてしまいます。
2人のサトラレが遭遇すると最高レベルの危険が発生します。互いに相手の心を読めてしまうから2人双方が「こいつはサトラレだ!」と気づきます。その気づきが相手に伝わるので「この人だけでなく自分もサトラレだ!」と両者は気づいてしまうのです。
サトラレであることに気づいた人の多くは絶望のあまり自殺を試みるので、サトラレ対策委員会の仕事も大変です。
少し話が脱線しますが、嘘をつけないというサトラレの属性を知って私は、最近話題の中国のSF「三体」を連想しました。地球人と比べて遥かに高度の知性を発達させた三体人は「考える」ことと「話す」ことが同一の行為になります。言い換えると嘘をついたり人を騙すことができないのです。他方、嘘をつく能力を有する地球の人類は、地球侵略を狙って全人類の活動を探知している三体人から軍事作戦を隠すために4人の「面壁者」を選び、三体人を倒す作戦を彼らの脳の中に秘匿します。
話をサトラレに戻します。「嘘も方便」なんて言いますが、他者を騙すことが人類の文明と高度の社会を支えてきたんだな、と気づかされました。私は読まず嫌いで長くこの「サトラレ」を読まずに生きてきましたが、非常に考えさせられる作品だと思いました。唯一の難点は、登場人物の顔が似ているパターンが多いので若干ストーリーを追うのに苦労することです。
165
星屑の仲間たち
22歳の主人公「みちこ」が致死性の癌(骨肉腫)になり、死ぬ。それを見守っていた姉が描いた、実話に基づく漫画です。
途中まではコメディーのような部分が多く、ギリギリ助かるのではないかと思っていましたが、当時(昭和時代?)の医療技術は低く、結局助かりませんでした。
抗癌剤が効く場合もあれば、効かない場合もあります。強い痛みを感じるときもあれば、大好きなお寿司やお菓子を食べる、元気で明るく振る舞う場面もあります。それでも最後まで、死の直前まで、笑いながら他の癌患者たちと触れ合う主人公みちこの姿に泣きそうになります。「私が癌になったらここまで前向きに生きられるだろうか?」と何度も考えさせられました。
絵が独特です。ヘタウマとも解釈できます。と言うより、作者は絵柄よりもストーリーのほうに読者の関心を集めようとしているのかもしれません。
75
ハイスクールレイニー
ストーリーは良くできていると思いました。作者の岩村月子さんの言いたいことも、漠然とですが、わかります。
でも絵に不満があります。絵のどの部分か?と言うと、背景画像です。背景の画像はおそらく写真を元にしていますね。それを加工して漫画にふさわしいタッチにしているとお見受けしました。私は写真を使ってもいいと思います。しかし加工のやり方が不充分です。登場人物たちがどこにいるのか明確でない場面が多すぎます。具体的に言うと、ロケーションが学校の職員室なのかハンバーガー・ショップなのか、区別が困難なページがありました。
この辺の「読者にわかりやすくする」技術は「ナンバーナイン」という、電子書籍配信の取次サービス会社ではなく旧来の紙の出版社の優秀な編集担当者との共同作業で改善されるのではないでしょうか? 換言すると、「ここを直せばもっと読者に支持されるよ」と適切なアドバイスをしてくれるプロとのお付き合いが大事だと思います。(生意気なことを言って申し訳ありません)。
34
新ブラックジャックによろしく
同じ病院で働く、恋愛関係にあるわけでもない、腎不全で死にそうな看護師・赤城に自分の腎臓を提供すべきかどうか?を問われる研修医・斉藤。彼をめぐる恋人・皆川と赤城の対決。斉藤は終始一貫して「僕は医者です。赤城さんを救いたいんです」の一点張りで倫理委員会の移殖認可を得ようとします。
旧作「ブラックジャックによろしく」と違って、斉藤先生の「顔芸」はあまり見られません。作者と編集部の意見の相違により連載誌が「モーニング」(講談社)から「ビッグコミック・スピリッツ」(小学館)に変わり、読者に対するわかりやすさが薄まり、その分じっくり考えさせる内容になっています。私は旧作より「新ブラックジャックによろしく」のほうが優れていると思います。
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